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面白さを求め、新しい景色をみるということ
三島邦弘さんの特別講義を聞いて(文:笛田千賀)
ミシマ社の三島邦弘さんをお迎えした、秋の特別講義が行われました。
ミシマ社は創業7年目、社員7名の小さな出版社です。出版不況で本が乱造されている今日、ミシマ社では「一冊入魂」をモットーに丁寧な本作りを行っています。
今回の講義では「出版という仕事」というテーマで、ミシマ社の本作りや、編集者としての想いについてお話していただきました。ミシマ社から書籍を出版された経験のある近藤雄生先生が聞き手となり、三島さんが著者とどのように付き合っているのかも垣間見ることも出来ました。

何もしないということを全身全霊でやる
三島さんは最近『異界を旅する能 ワキという存在』(安田登著/ちくま文庫)を読んで、能楽におけるシテとワキの関係が、作家と編集者の関係と同じじゃないかと気づいたそうです。
能では、シテの話をワキが何もせずにただ聞くことで、シテの抱える思いが解消され、観客はワキを通してシテの思いをくみ取ることができます。
作家と編集者も同じで、口を出すことが編集者の仕事だと捉えられがちですが、会社における上司の役割が「君に任せた。全部責任をとるから、好き放題やっておいで」と責任をとることであるように、編集者は作家に対して「思う存分のびのび書いてください!」と念を送るだけでよいというのです。
編集者が何もしないということを全身全霊でやったとき、作家のなかで固まっていたものが語られはじめる。その先に面白い作品がある、という三島さんの考え方はとても興味深かったです。

企画書通りにならないときに、面白いものが生まれる
これは、今回最も印象に残った三島さんの言葉です。内田樹さんの『街場の文体論』や、異なる2種類の紙を交互に使用する世界初の技術で造本された『透明人間 再出発』など、面白い本を手掛ける三島さんの言葉だけに、とても説得力があります。
最初から思い描ける面白さは既成のものであり、新しいものではない。思いもよらぬ方向に企画が転がっていったとき、新しい面白さが生まれる・・・。そういったことに、改めて気づかされました。

新しい景色を見せてくれる人
会場にいた編集者を目指す学生からの「本作りをしたい・出版に関わりたいと志す人のどんなところを見ますか?」という質問に対し、「『この人と一緒だったら、今まで見れなかった景色が見れるようになるかもしれない』と思わせてくれるかどうか」と三島さんは答えて下さいました。
私もいつか誰かに「あなたと一緒だったら、きっと新しい景色が見られる」と思ってもらえるように、日々邁進していかなければならないなあと感じました。
笛田千賀(文芸表現学科2回生)
| 2012.12.07 Friday | レポート | 投稿者:ukai |